五嶋みどりリサイタル

http://farm3.static.flickr.com/2362/2160970238_606c75594e.jpg

1月2日は浜離宮ホールに五嶋みどりさんのリサイタルを聴きに行ってきた。


今回の曲目は以下の通り。

ドヴォルザーク「4つのロマンティックな小品 作品75」
ベートーヴェン「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第6番 イ長調 作品30-1」
ドビュッシー「ヴァイオリン・ソナタ
フランク「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調


前回の来日でも感じていたのだが、何かいい意味で吹っ切れていて一段と凄みを増している印象をもった。円熟というより「進化」していると言ったらいいのか。フランクのヴァイオリンソナタはCD録音も出ているが明らかに今回のライブのほうが迫力があった。

みどりのヴァイオリンで素晴らしいのは、音程が抜群によくて音が美しいのはもちろんなのだが、弱音になっても音量が小さくなるだけで音色がぜんぜん痩せないところだと思う。だからピアニシモの部分でも表現が多彩で、むしろ音量が下がるところで音楽にどんどん引き込まれていく。一方アタックのところでは全身を鞭のように使って強烈な一撃が入る。ちょっとテニスプレイヤーがサービスを決めるみたいな感じで聴いているほうも思わず力が入る。全般的に楽器(というか体全体)を動かしながら演奏する人で、伴奏しているピアノの鍵盤にかぶさるぐらいに後ろにさがったり、ぐっと前に出てきたりとまさに変幻自在。同時に音楽への凄まじいまでの集中力が感じられる。今回はかなり前のほうで聴くことができたのだが、至近距離で演奏するその姿は圧倒的だった。

もう10年以上、みどりの来日リサイタルは可能なかぎり聴きに行っているが、毎回毎回その表現とオリジナリティに改めて感銘を受ける。普通どんなにすばらしいソリストでも、リサイタルに何度も足を運ぶうちに何となく「慣れ」てくるものなのだが、みどりのリサイタルではいつも新しい発見をもらえるような気がする。今回もベートーヴェンの6番という結構地味めな曲の演奏で「え、こんなに良い曲だったっけ?」と驚かされた。

五嶋みどりは「絶対音感」で書かれているようないろんなエピソードも有名だが、そういうのをすべて忘れて、表現の多彩さ、楽曲の解釈の深さ・オリジナリティ、演奏技術、いずれをとっても現時点で世界最高峰のヴァイオリニストだと思う。パンフレットの表現を借りれば「全ての音に意味がある」。同じ時代を共有できることを感謝したい。


ホームページによると、今回のリサイタル直前には、国連平和大使の活動でカンボジアを訪問・演奏していたらしい。本当に頭が下がるとしか言い様がないです。

http://www.gotomidori.com/

追加

YouTube見てたらチャイコフスキーのヴァイオンリン協奏曲がアップされていた。これ、録画しそこなったのを長らく悔やんでいたものだ:

Tuttiのあと、ヴァイオリンソロが主題を繰り返すが、繰り返した2回目の表現がもう何度聴いても素晴らしい。チャイコフスキーでこんなに深い表現するソリストは他にいるだろうか?