ノリントン&シュトゥットガルト放送交響楽団

ついに聞けた!私が行ったのはミューザ川崎の回で、曲目は

サリヴァン 歌劇「近衛騎兵隊」序曲
ヴェートーヴェン ピアノ協奏曲第四番 (pf.小菅優)
ブラームス 交響曲第1番

モダンオケ+管楽器・ティンパニをピリオド*1に一部変更という折衷方式で、弦楽器は一部のソロを除いてほぼ完璧にノン・ヴィブラート。このノンヴィブラートの響きが好きになれるかどうかで大きく評価がわかれると思うが、個人的には「美しい」と感じられた。単にオーセンティックだからいいのではなく、現代の普通の聴衆が聞いて「いい演奏」と感じられないとピリオド演奏の意味はないと思っているが、ベートーヴェンブラームスも弦が実にすっきりと響いて新鮮な感覚だった。

モダンオケで奏法がピリオドという折衷方式も、演奏効果という点では望ましいのかもしれない。以前、18世紀オーケストラ(指揮:ブリュッヘン)でベートーヴェンの7番を聴いたことがあった。こちらは完全ピリオドで弦楽器も当時(を模した)ものが中心だった。が、響きは清楚で美しいのだが、何分迫力がいまひとつで正直ものたりなかった。単純に音量が現代オーケストラと比較して不足してしまうのだ。そのときはピリオド演奏はコンサートよりもCDのほうがいいのかな、とさえ思ったのだが、今回は迫力という点でも申し分なかった。

私的にはベートーヴェンが特によかった。この曲はコンチェルトとしてはめずらしく、最初がピアノソロなのだが、その頭のソロが自然で素晴らしかった。その後出てくるオーケストラの音も透明感がある。編成を極端に小さく、ヴァイオリンを3プルト、チェロ2プルトぐらいにしているのだが、要所要所では意外にオケの音量もある。

ピアノの配置が変わっていて、ピアノをオーケストラに突っ込むように置いている。ピアニストはステージ中央に向こう側を向いて座る感じになる。ちょうどバロックチェンバロコンチェルトのような配置である。で、指揮者はというと、ピアノの奥左側に小さなスツールを置いてそこに座って指揮をしていた。ちなみにノリントンはこの曲を含め全曲スコアなしで指揮していた。テンポは全体的に非常に早い。ピアノがフォルテピアノではなく普通の(現代の)コンサートグランドなので、もう少しテンポを落としてあげたほうがピアノがもっと響いたのではないか、とも思ったが。多分小菅さんのテンポではなくノリントンの意向を優先したのではないだろうか。しかし4番はいい曲ですね。最近ipodでも4番をよく聴いている。

次のブラームス。ピリオド演奏でブラームスを聴いたことがなかったので、最初から響きが新鮮でおもしろかった。でも聴いているとノンヴィブラートなのかとかだんだん気にならなくなって、音楽そのものに入り込んでいく。こうなるとマーラーのノンヴィヴラート演奏もぜひ生で聴いてみたいと思った次第。

シュトゥットガルト放送交響楽団は別に古楽器専門オケではないし、他の客演指揮者のときはヴィブラートたっぷりの演奏もしているみたいなので、そういう意味では普通のモダンオケのひとつである。だからノリントン的な演奏・解釈の可能性というのは多くの他のオーケストラにも開かれていると思う。結局ヴィヴラートは演奏技術の一種であるので、どう使いこなすかは演奏家や指揮者の芸術表現に他ならない。歴史的正当性(ベートーヴェン時代はヴィヴラートをかけなかった「はず」)というのはむしろ二次的問題で、要は聞いていて感動できるか、2008年の聴衆にアピールできるかどうか、なので。

このコンサート、直前までテレビでCMやっていたりしてもしかして東京ほどチケットが売れていないのかとも思っていたが、結局満席だった。

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ノリントンベートーヴェン交響曲全集は、新旧両方おもしろいが、とくに旧版(London Classical Players)のは過激で最近の愛聴版になっている。カラヤン等の往年の演奏しか知らない人には衝撃かもしれない。ベートーヴェンなんて小学校の音楽鑑賞みたいと思っている方、目(耳)から鱗だと思います。hmvだと全集でも普通のCD1枚分(2000円代)という激安価格なので、ぜひ一家に1セットとお薦めしておきます。

*1:作曲当時の「時代」(period)に使用されていた楽器/演奏スタイル。たとえばナチュラルトランペットはピストンがない。