A.C.クラークと情報科学

クラークのSFは壮大なビジョンと同時に未来の日常生活が緻密な予測のもとに描かれている。そのへんが理系心をとらえてはなさない。

たとえば地球帝国のペントミノのエピソードなど。2001年宇宙の旅でもクラーク案ではチェスのかわりにペントミノHAL9000と対戦することになっていた(最終的には採用されなかったがシーンの写真が残されている)。

http://www.crocodilus.org/dominos/images/2001.jpg

むかしペントミノにはまっていろいろプログラムを書いたが、地球帝国では5時間かかるはずの全解探索処理がJava applet で普通に書いて5分ぐらいで終わってしまった....

( Pentomino Java )

また、通信理論がバックグラウンドにあるからかも知れないが、同年代のSF作家と比較して情報科学サイバネティックスに関する見識がずばぬけている。ブライアン・アッシュの「SF百科図鑑」でもたしかサイバネティックスの項を担当していたのではなかったか。実は情報科学に立脚したSFというのは80年代にサイバーパンクが出現するまでほとんどなかったのである。たとえばアシモフのロボットものは「ロボット三原則」をルールとしたトリック小説的な趣きが強い。そんな中でクラークのアイデアは今でも斬新であるし未来を感じさせる。「都市と星」のダイアスパーにおける「記憶バンク」は究極の検索エンジンでもあり、後のサイバースペースを予見させる。

そしてもちろんHAL9000 も。ロボットのような「機械人形」ではない人工物としての知能が人間とどうインタラクションするかをはじめて精密に描いたのがHALではないだろうか。HALは自然言語で会話するが、あくまでも機械であって安易に擬人的には描かれていない。テクノロジーがインテリジェンスと呼べる域に達したとき、人間とのインタラクションはどうなるのか。そういう設定を真剣に考察するのがSFの神髄だ。HALはまさしくランドマークであり、多くの議論を誘発した。リアル2001年にはHAL's Legacyという研究本も出版された。

もっと身近なコンセプトとしては「コムソール」(これも地球帝国?)というのがあって、まさに今のインターネットや情報検索に似た利用形態が描かれている。利用者はかならず一度は自分の名前を入力して検索してみるだろう、といった予測まで含めて。

訃報を聞いて「未来のプロフィル」をちらりと読み返してみたら、最後の未来予測年表に[2000年 全地球図書館の出現」みたいなことが記されていた。 Googleとぴったり一致するタイミング....

クラークは科学を空想すると同時に空想を科学する価値を我々に教えてくれた真の知的巨人だと思う。ご冥福をお祈りします。これから楽園の泉を読み直してみます。