もうひとつの現実歪曲空間:プレゼンの極意

(すでにこういうことを把握している人には当たり前すぎる内容かも。今週は論文指導・ポスター指導・プレゼン指導が山積みで、実は同じ原理を繰り返し説明しているだけだと気づいたのでメモしておきます)。

よいプレゼンをする方法も、よい文章(論文)書く方法も、極意はただひとつなのだと思っている。研究内容で事業内容でもおよそ他人に読んでもらったり聞いてもらったりするときのポイントは、

プレゼンする人はその内容を知りすぎている。でも聴く人は生まれてはじめてそのスライドを見る。始めてその話を聴く聴衆の頭の動きをどれだけ予測できるか。シミュレートできるか。

という一点につきる。要は三人称視点で自分のやっていることが見れるか、ということで、金出先生の有名な「プレゼンスライドは重要な順に並べろ」というのも、高城剛氏がコンテンツの極意として語っていた「サビ頭の原則」というのも、ここから演繹できる。もっとミクロな、例えば「ここでスライドにアニメーションを入れるべきか」みたいなこともこの原則からロジカルに決定できる。

しかしこれが難しいのは、「自分がこれから話す内容をまったく知らないであろう聴衆(読者)のためにプレゼン(論文書き)をする」という経験が、普通の学生さんだとあまりないからだろう。友達どうしの会話はすでに状況や予備知識を共有しているので、会話といっても単に「ああそれいえてる」みたいな同意の記号を交換しているだけだったりする。教師と生徒の会話というのも、教師側がかなり学生の頭の中を予測して歩み寄ってしまう場合が多い。相当に不完全な情報を学生が出してきても、コミュニケーションが成立してしまう。三人称の視点で思考する訓練になっていない。

実例としては、ジョブズのプレゼンはあまりにも有名だが、やはりじっくり見れば見るほど学ぶべきところが多いと思う。極端に少ない文章、間のとりかた、情報の出し方、情報を出す順序、など。「なぜ、この時点でこのスライドを出そうと考えたのか」を気にしながら見ると非常によい訓練になる。

一方、超ドメスティックで一見べたべただが、あらためて見直してみるとすごいと思うのが 「ジャパネットたかた」 。動画がアーカイブされているが、どうしてあんな売れ残りのデジカメを魅力的な商品として売りさばくことができるのだろうか。毎日見れる現実歪曲空間、ではないだろうか。スライドやパワーポイントを使っているわけではないので、そちら方面の参考にはならないが、それでもどのタイミングでどんな情報を出すのか、導入はどうするのか、声のトーンや間合いをどうコントロールするのか、など学ぶべき要素が沢山ある。それにしても高田社長はあれほどの商品番組を連日、しかも、かなりの商品について生放送で実際に操作しながら説明している。カンペがあるのかも知れないが台本を読んでいるようには全く見えない。驚異的な才能だ。

追記

上の原理の簡単な系は「自分のプレゼンを良くするより、人のプレゼンを改善するほうがはるかに簡単」だ。なので学生同士ででもお互いに見せ合ってアドバイスし合ったほうが効率的。