Ubicomp2008

先週、韓国ソウル市でユビキタスコンピューティングに関する国際学会(Ubicomp 2008)が開催された。場所は江南のCOEXコンベンションセンター。地上がコンベンション施設で地下が巨大なモールになっている。近くにはオリンピックスタジアムなどがある。

今回も、紙によるプロシーディングスの他に、論文/ビデオがコピーされているUSBメモリが配布された。


これは本会議前日のワークショップレジストレーション風景。手作業でかなり大変そうだった。


韓国開催というこで、学会参加者はアジア圏(とくに韓国/日本)が多かったが、論文投稿・採択に関して言うとまだまだ米国が優勢である。

キーノート



キーノートはSamsungのShim Yoon (Samsung SDS vice president) による"Realizing the Ubiquitous City"。どちらかというと一般向きの講演で、ユビキタスコンピューティングの専門家にはものたりない内容だったが、Samsungが携帯電話からエレクトロニクスから建設まですべてをまかなえる巨大コングロマリットであり、官民一体となってubiquitous cityを推進している、という事態はちゃんと認識していたほうがいいと感じた。

SpinTrack: Spinning Infrastructure Nodes for Precise Indoor Localization

(Jr-ben Tian, Ho-lin Chang, Tsung-Te Lai, Hao-Hua Chu, National Taiwan University)

。回転する電波源からのビーコン周波数のドップラーシフトによって位置認識しようというもの。昨年LoCAで発表していたRadio Interferometric Positioning *1 の発展系らしい。

Who will be the customer?: A social robot that anticipates peopleís behavior from their trajectories


ロボットによりショッピングモールの案内システムだが、そもそも誰が案内を必要としているのかを見定めなければならない。歩行者の移動パターンを認識して、ただ通り過ぎようとしているのか、店に入ろうとしているのか、などを識別する。図のように、歩行者がどっちに進んで行きそうかを予測している。ロボットに限定しなくてもいろいろ応用できる研究だと感じた。

CILoS: A CDMA Indoor Localization System


CDMA基地局からのビーコンのディレイを厳密に計測して位置認識するというもの。

Pedestrian Localisation for Indoor Environments


今回は(も?)activity recognition, indoor positioning系の発表が多かった。
これは慣性センサーでindoor positioningするときに階段の上り下りを認識して精度を高めるというもの。マップマッチング的アイデア

Development of a Wearable Sleep Sensor to Monitor Sleep States


東芝の腕時計型スリープセンサー。睡眠状態をモニターして、絶妙なタイミングで起こしてくれる。

Bookisheet: Bendable Device for Browsing Content Using the Metaphor of Leafing Through the Pages


本のページをめくるメタファーで情報ブラウジングする。Gummiと同様のアイデアだが、本の「しなり」の検出などのセンシングが精密になっている。ただ、bendingはけっきょく一自由度の操作なので、センサー構成が複雑になる割には、できることがマウスホイールなどと大差ないような気がする。ホイールなら片手で操作できるがbendするためには両手が必要。また操作のバインディングをページめくり以外にしたとたんに恣意的に感じられる(たとえばズームにマップしてしまったときなど)。具象性と汎用性のバランスをどう設計するかが課題だろう。

Spyn: Augmenting Handcraft to Support Storytelling and Reflection


編み物をしながらストーリーテリングする活動を支援する。インビジブルインクでマーキングされた毛糸を使う。

Picture This! Film assembly using toy gestures


人形にカメラをとりつけて子供達に撮影させようというもの。人形を振ったりする動作でカメラを制御する。ただ、子供が人形遊びをしている感覚って、こういう1st person 視点なのだろうか、という素朴な疑問を感じた。

Vibro-tactile Space Awareness


ベルトに振動子をつけて方向をナビする。塚田君のアクティブベルト*2と同じではないだろうか。

なんじゃこれ


これはマイクロソフトリサーチによる「Gパンのジッパーを上げ忘れたことを警告してくる装置」。本気なのかシャレなのかはよく分からない。さすがMSR様は研究のレベルが高くていらっしゃる。

なんじゃこれその2


ワークマイザー

国際学会デビュー

私のところの学生(修士一年)が国際学会デビューだった。

Nobuyuki Kasuya, Takashi Miyaki, and Jun Rekimoto, “Activity-based Authentication by Ambient Wi-Fi Fingerprint Sensing”
内容はWiFiフィンガープリントによる行動履歴記録をセキュリティや認証にも応用しようというもの。研究室に所属して半年、よく頑張ったと思います。

次世代型ポスター


ポスターセッション会場で。ポスターを紙ではなく布に印刷してくる人がいた。確かにこれなら筒がなくても持って来れる。賢い。

パネルセッション

最後にパネルセッションについて。今年はUbicomp10周年ということでそれを振り返り、今後について展望するというテーマだった。

ジョージア工科大学のGregory Abowdは、

  • Ubicompは、自分のホームグラウンドであり依然重要だと考えている。
  • Ubicompの発展には段階があり、Mark Weiserによるビジョンの段階、ビジョンを現実にする研究の段階、社会へインパクトを与える段階と進化してきているが、次のフェーズを考える必要がある。
  • 一方で類似した学会が多すぎて情報が希薄化しているのではないか、

と述べていた。

その後会場からの意見がいろいろ出た。印象的だったのはSamsungの研究者からのコメントで、"発表内容が高度だということは理解できるが、反面、直接インパクトを感じられるものが少なかった"というもの。要するに「これはスゴい」というより「昨年よりここがよくなりました」というインクリメンタルな研究が増えているという指摘である。これは多くの参加者が感じている通りなのではないかと思う。パネリストの徳田先生も"SIGCOMMも似た経緯を辿っていて、高度ではあるがインクリメンタルな研究が増えてしまった"などとコメントしていた。

私は最後のほうで"interdiciplinaryな学会というわりには、だんだん研究コミュニティーと研究内容が固定化してきているように感じる。イノベーションを起こすには、同じ人だけでやっていないで、もっとちがう分野の人を取り込んでいくように努力するべき。たとえばroboticsのように近い(はず)の分野の人とも意外に交流が進んでいない。他にもマテリアルサイエンスやナノテクノロジーなどの人とも交流できるはず" とコメントしたが、どう受け取ってもらえたか。

*1:Hao-ji Wu, Ho-lin Chang, Chuang-wen You, Hao-Hua Chu, Polly Huang: Modeling and Optimizing Positional Accuracy Based on Hyperbolic Geometry for the Adaptive Radio Interferometric Positioning System, Location And COntext awareness, LoCA 2007

*2:Tsukada, K., Yasumura, M., ActiveBelt: Belt-type Wearable Tactile Display for Directional Navigation, UbiComp 2004