はじめての国際学会発表

なんか「はじめてのお使い」みたいですが、初めて国際学会発表する人のために。


  1. 大前提だが、英語の発表をするのが目的でなく、研究の発表が目的。英語が多少下手なのはしかたがないが、発表(研究) そのものがつまらないとどうしようもない。


  2. 発表時間が何分なのか(純粋な発表と、質疑の時間との配分はどのくらいか)を確認する。大きな学会だとセッションのタイプも色々なので混乱しないように。


  3. 学会にレジストしたら、まず自分が発表する会場を確認する。その会場でのセッションに参加して、スクリーンと観客の距離はどのくらいか、どのくらいのサイズの文字まで読めるか、スクリーンの下の文字はどこまで見えるか、などを確認する。必要に応じて発表スライドを手直しする。


  4. 一般原則として、スライドの文字数は少なめに、1ポイントでも大きなフォントにならないか工夫する。アニメーションを使うと、一度に出す文字の量を調整しながら説明できる。

  5. ただし、アニメーションは、画面に出す情報の順番を制御するために使うのが主目的で、効果は単純なappealやdissolve inに限定すべき。スライド間のトランジションも派手な動きのものをいれると視覚的にうるさいし、質疑の際のスライド間移動に時間をとられて見苦しい。


  6. スライドの下端付近に文字を書くと前の人の頭で見えない場合があるので避ける(スライドの下に組織や研究室のロゴなどを置いて文字を書けないようしておくのも一案)。


  7. 発表原稿を書く。プレゼンソフトでは発表用画面にノートが出せる機能があるが、それを前提にしていると万が一ミラーリングしかできなかった場合に破綻する。なので慣れてないうちは大きめの字でプリントした紙原稿を持っていたほうが安心かも。(深夜だったりプリンタが利用できないときは、ホテルの部屋宛にfaxで原稿を送るという手もある)。


  8. 練習は少なくとも5回。時間を計りながら、声をはっきりと出して練習する。最初のうちはスライドにあわせて原稿を音読(朗読)してみるだけでいい。音読すると、言いにくい(説明しにくい)感じのところ、センテンスが複雑すぎるところ、表現や用語が硬すぎるところ、1枚のスライドに時間を使いすぎているところ、などがわかってくる(→そういうところに注意しながら練習していく)。それに基づいて原稿・スライドを修正する。どうやって喋る内容を精査してシンプルにしていくか、は例えば"The Presentation Secrets of Steve Jobs"などが参考になる(国際学会で発表する人は翻訳ではなく原著で読んだほうがいい。 Kindle版がお薦め)。


  9. 原稿を読まずに発表できるまで練習してほしい*1が、どうしてもそうできない場合でも、どこが大事な場所なのかが口調でわかるように努力する。大事なところの前後で間をとる、など工夫する。淡々と読んでいる感じになると会場が白ける。(原稿を読みながら人の注意をひきつけておくのはむしろ高度な技術である。アナウンサーはプロなのでそれができる。一般人にはなかなか難しい。)


  10. プレップルームを活用する。大きな学会だとプレップルーム(練習部屋)が用意されているので、そこで練習する。できればネイティブの知り合いに聞いてもらうといい。


  11. 自分の発表のセッションには休憩時間に会議室に行き、プロジェクターの接続を確認しておくこと。セッションチェアに挨拶して「質問わからなかったら助けて下さい」とお願いしておく(学生の特権)。チェアが女性の場合、冒頭で「サンキューチェアマン」と言わないように(単にThank youで充分。あるいは"Thank you for the kind introduction" とか)。


  12. 英語の発音が日本人っぽくてもそれほど気にする必要はない。発音がいいに越したことはないが、変に巻き舌になる必要はない。まずは、声をはっきりだして、滑舌よく、早口になりすぎずに、センテンスとセンテンスの間をあけることを心がける。そしてアクセントの位置に気をつける。LとR,sとthなどが多少怪しくても、重要キーワードはスライドにも書いてあるわけで「通じる」という意味ではまず問題にはならない(どうでもいいというわけではないが*2)。


  13. 発表中に会場から発表の仕方に注文がつく場合の99.9%が "speak up!" (もっと大きな声で!)。英語が通じる通じないは発音の良し悪し以前に、まずはっきり(ある程度以上の音量で)しゃべっているかどうか。それは日本語でも全く同じ。


  14. 自分の論文に目を通して(音読して)、発音できない単語がないか確認しておく。発音機能つき電子辞書は便利というか必須。iPhoneアプリもいろいろある。とくに、数量、数式、単位、記号、固有名詞がとっさに発音できなかったりするので読み方を確認しておく。我々の所属の "interdisciplinary" も発音練習してないと噛む。


  15. 国際学会の場合、聴衆は研究分野についての事前知識を持っている場合が多い。冒頭で、背景説明のつもりで皆が知っていることを長々しゃべると、だれる。なるべく早く「何が問題か」を説明し、自分の研究の説明にもっていく。


  16. 同様な理由で、専門家が集まっている学会では「サビ頭発表」はとくに有効。発表の前半にクライマックスを作る。前半だけ聞いてだいたい研究内容がわかるような時間配分にする。後半は評価だったり考察だったり、少し込み入ったところを説明する。関連研究も後半に回して問題ない場合が多い。*3スライドの順番をちょっと変えるだけで途端に分かりやすくなったりもするので色々工夫してみる。推理小説ではないので前半(冒頭)でネタバレしていて一向に構わない。逆に最後まで聞いてやっと何の研究かわかった、という発表は聴衆を疲れさせる。そして最後に結局この発表は何だったのかを1枚でサマライズする(パラレルセッションの場合、発表途中から聞き出す人もいるので最後にコントリビューションを念押ししておく)。


  17. 同じセッションにはテーマの近い発表が集められているので、自分の前の話者がどう説明するかも注意しておくこと。場合によっては導入部を軽くしたり省略することもできる。


  18. 質疑応答は慣れていないとなかなか難しいが、短く答えられるもの、とくにyes, noで答えられるはずの質問はまずそう答える。それから説明を補足していく。*4結論を言わずにしどろもどろな説明を延々していると会場全体がハラハラしてしまう。


  19. 本発表だけではなく、概要の頭出し(全発表者が各1分ぐらいでサマリを話す。madnessと呼ばれる)をする場合もあるので、準備しなければならないものが何なのかを把握しておく。直前に状況が変わる場合もあるので、学会から来るメールには注意しておく。


  20. レセプションなどで「どんな発表をする(した)の?」と聞かれる機会もあるので、発表内容を一枚ぐらいにまとめた資料を持っていると便利かも(ポストカードにして会った人に配る)。名刺を作っておくできるだけ色んな人に名前を覚えてもらう意気ごみで。


  21. 初めて国際学会にいくと当然ではあるがみんな英語を話していて焦るかもしれないが、いわゆるネイティブ(米国生まれ米国育ちetc.)だけではなく、非英語圏からの参加者、留学生も相当数いることに留意する。皆それぞれの国っぽい発音でしゃべっている。日本人も物怖じする必要はない。


  22. 同様に、英語に不慣れな聴衆もいる、ということにも配慮する。その人達にもわかるように、できるだけシンプルな英語で説明するように心がける。難しい単語を使えば発表が高級そうにみえるだろうなどと思わないことジョブズオバマもシンプルな英語で素晴らしいプレゼンをしている。


  23. また、欧米人だから発表がうまいというわけではないことも知っておいたほうがいい。中には信じられないようなセンスのスライド(文字が異常に小さかったりコントラストの極端にない文字色だったり)な人もいるので惑わされないように。逆に上手な人の発表スタイルはどんどん参考にする。


  24. その他一般的なところは日本語発表と同じなので ここ (修論発表チェックリスト) を参照。


*1:原稿を丸暗記するという意味ではなく、自分の言葉で説明できる状態に達するということ。多少の言いよどみ、繰り返し、などは全く問題ない。

*2:発音については金谷先生の解説が秀逸。一読をお勧めする。

*3:欲を言えば、後半にもう一押しあるとさらに印象が強くなる。いわゆるone more thing. たとえばこのビデオだと、前半でstreet slideの効果や実現手法を説明したあと、後半の一押しで上下に広告や住所を配置できる、などちょと違った方向からの売りを押し出している。

*4:よくやるのは"The short answer is YES, and...."という言い方