安村先生最終講義 - Most of them have tricks of their own
昨日2月2日は慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(慶應SFC)で安村通晃先生の最終講義だった。安村先生は日立中央研究所でS810の並列コンパイラのチーフデザイナなどコンピュータシステムの研究開発をされたあと、SFC創設時に大学に転じられ、以降20年以上にわたってヒューマンインタフェースの研究と教育に従事された大先輩だ。
安村先生の研究室からは、後にイグノーベル賞を受賞することになる塚田浩二君(お茶の水女子大学)や、ERATO五十嵐プロジェクトで活躍されている渡邊慶太君といった多くの個性的な人材が輩出している。未踏プロジェクトの採択数も単一研究室としては最多ではないだろうか。
最終講義「「インタラクションデザインとSFCと私」では、日立時代のお話から(今からは隔世の感があるけれど、当時のスパコンは日本の独壇場で日立のS810とNECのSX-1/2 が世界最高速コンピュータとして凌ぎを削っていたのです)、SFC創立時のエピソードや学生との研究の話など盛りだくさんの内容で、予定の90分があっという間にすぎてしまった。
講演終了後の質疑の時間に、学生の指導についてどういうことに気をつけているか、とお聞きしたところ「学生のアイデアをなるべく尊重するようにしている/それでもこれはどうなのか、というところにはアドバイスする/いつも楽しくやるように心がけている」とお答えいただいて、なるほど安村研の明るくポジティブな雰囲気が伝わってくるような気がした。
私自身も2007年から大学にも身を置く立場になり、企業研究所から大学という、安村先生が歩まれた道を辿ることになった。そして人に何かを教えるというのはいったいどういうことだろうと自分なりに考えるようになった。もちろん教えることについて単一の答えはないし、教える相手やフェーズによっても違ってくるので日々模索の過程だが、ネガティブであるよりはポジティブに、そして皆の「持ち味」をなるべく引き出せるように心がけている(つもりである)。
また、個人的にはスタイルを見せることが重要かなと思っている。自分自身ではそれなりにスタイルを持って研究をしているつもりで、それが唯一無二ではもちろんないのだが、どういうところを大事だと思っているのか、揺るがせにしてはならないところ、力を抜いてもいいところ、がどこなのか、という方法論のひとつのインスタンスとして観てもらえればと思っている。
安村先生の講義を聞いて、そのあとも教えるって何だろうと考えていたら、シェーンという古い映画のことを思い出した。「シェーン、カムバック!」という最後のシーンで有名だが、いろいろ含蓄のある台詞が多いので好きな作品だ。その中で、シェーンが少年ジョーイに拳銃の使い方を教えるシーンがあって、こんなやりとりがある:
Shane: Most of them have tricks of their own.
One, for instance, likes a shoulder holster.
Another one puts it in the belt of his pants.
And some like two guns.
But one's all you need if you can use it.Joey: Which is the best way?
Shane: What I'm telling you is as good as any, better than most.
シェーン:たいてい皆、それぞれに自分のやり方を持っている。たとえば肩掛けのホルスターを使いたがるのもいるし、ズボンのベルトにガンを差すのもいる。2丁拳銃を好む連中もいる。でも、使いこなせるんだったらひとつで充分だ。
ジョーイ:どれが一番いいやり方なの?
シェーン:今教えている方法は他のどれとも同じぐらいはいいし、大抵のものより優れているよ。
ということで、私も自分のやり方が better than most だと信じて観てもらうしかないのかなと思った昨日だった。
So all I can do is keep telling my own trick, hoping that it is better than any other.
P.S.: 安村先生は、退官後、SFCの非常勤をされる傍ら、「起業」に挑むとのことです。Mike先生の今後のますますのご活躍が楽しみです。