LoCA2007
LoCA はInternational Symposium on Location and Context Awareness の略で、今年が3回目の開催である。場所はミュンヘンから1時間ぐらいのところにあるDLR (German Aerospace Center)だった。NASAあるいは日本のJAXAに相当する機関の施設で、敷地内には管制センターや飛行場もあった。
論文採択率は、採録17 / 投稿55 で30.9%。
以下いくつか論文概要をメモしておく。(ただしUbiCompとちがってかなり専門的かつ細かい話が多いので、これだけだと何が面白いのかわからないかも知れません。)
Depolyment, Calibration, and Measurement Factors for Position Errors in 802.11-based Indoor Positioning Systems
Thomas King, Thomas Haenselmann, Wolfgang Effelsberg
WiFi屋内位置のフィンガープリント採取手法などの評価報告。50cmごとにフィンガープリントを採取すれば、2m程度の誤差で位置が推定可能。
LifeTag: WiFi-based Continuous Location Logging for Life Pattern Analysis
Jun Rekimoto, Takashi Miyaki, Takaaki Ishizawa
WiFi positioning技術を使って超小型の位置記録(ライフログ)デバイスを作る。GPSと異なり屋内位置認識が可能。間歇動作が可能なのでバッテリー消費も少なく、1週間連続で記録できる。研究用に利用したいので売ってほしいという問い合わせを色々受ける。
Information Overlay for Camera Phones in Indoor Environments
Harlan Hile, Gaetano Borriello
拡張現実感システムで、カメラで撮影した画像を解析し、その画像に合った情報をオーバーレイする。床のコーナー認識、局所特徴量(SIFT)などを使う。マーカーを用いなくても、部屋の映像に3次元的に一致したオーバーレイ情報が表示される。
Social Motion: Measuring the Hidden Social Life of a Building
Christopher Wren, et al.
ビルに取り付けられた赤外線センサーなどの単純なセンサー情報を統合して、ビル内のアクティビティを推定する。インターン学生が働き出すなどのビル内の行動パターン変化や、プロジェクトの進捗状況などが観測できた。
Inferring the Everyday Task Capabilities of Locations
Patricia Shanahan, Wiliam Griswold
ある場所にいるとき何をするか、という関係表を作りたい。サンプルが十分にないとマトリックスに抜けが出るので特異値分解して情報を圧縮してマトリックスを作る。
Adaptive Learning of Semantic Locaitons and Routes
Keshu Zhang
GPSの位置ログから、その人にとって重要な「場所」を抽出する。基本的にはクラスタリングするのだが、滞留時間が長い場所だけではなく「毎日ちょっとだけ寄る」場所などを取りこぼさないようになっている。
Signal Dragging: Effects of Terminal Movement of War-Driving in CDMA/WCDMA Networks
Dehyng Jo et al.
携帯機器を高速に移動させながらWar Driving*1すると、認識できる基地局がずれる傾向にある(前方の基地局の認識が遅れ気味になり、消えるはずの後方の基地局情報がいつまでも残っている)。この性質をちゃんと分析してWar Drivingの性能を上げようという試み。
Modeling and Optimizing Positional Accuracy based on Hyperbolic Geometry for the Adaptive Radio Interferometric Positioning System
Hao-ji Wu, Chuang-wen You, Hao-hua, Polly Huang
RIP (Radio Interferometric Positioning)というのは複数の電波基地局から微妙に周波数のずれたビーコンを放射して、その合成波を観測することで位置を認識する方式で、場所によって合成波の位相がずれることを利用している。位置推定が二つの双曲線の交点になることを考慮すると推定誤差を減らすことができる。移動体は電界強度の変異を認識できればよい。通常のMOTEなどを使ってWiFi位置認識より精度が高く認識できる。
TOA (Time of arrival, 電波の到達時間)による位置推定のような厳密な時間同期が不要なわりに、電界強度だけでやるよりは精度が高いので良さそうな方式に見える。が、本人に聞いてみたところ屋内だと反射物が多くてそれなりに苦労しているみたい。なので屋内でも空間が広がっているところ、たとえばサッカースタジアムなどで選手の位置をトラッキングする、なんかなら使えるんじゃないかとコメントしておいた。
Localizing Tags Using Mobile Infrastructure
Ying Zhang, Kurt Partidge, Jim Reich
UbiSenseのようなUWBによる位置認識システムでは、受信機を部屋に設置して、タグ(発信器)を持ち歩く。受信機は高価なので位置推定すべき面積が増えると負担になる。そこでタグを環境に貼り付けて、受信機を持ち歩く。UWBでは電波の到来角(Angle of Arrival)があるので、それを使う。タグの位置を記録しなくても、一定の距離に置かれた2台の受信機で環境内を巡り歩くとセルフキャリブレーションができる。
* * *
だいたいこんな感じです。
今回LoCAにはじめて参加したが、位置認識の技術的な話が多く、あまり「位置をどう使うか」というアプリケーションで新規性を出そうという話は聞けなかった。一方、誤差評価などはかなり厳密にやっているので、Location & Context-Awareness というより Location & CAlibration みたいな印象を持った。
DLRの宇宙管制室
会議終了後、開催地であるDLRの見学ツアーが開催された。樹木に覆われた一見クラシカルな建物の地下に、実は各種衛星の管制室がある。よく見ると、Windows とLinuxが使われている。右側は宇宙ステーションモジュールClumbusの管制室。
またヨーロッパ主導の新GPS、ガリレオが使う衛星の管制センターも建設中だった。こっちは建物が近代的で建築コンペをやったらしい。別に建設現場を見せてもらわなくても、という気もするが、建設中のビル内部まで案内して頂いた。管制室の写真撮影が自由なのは平和でいいですね。
Location- and Context-Awareness (Lecture Notes in Computer Science)
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